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神宮前2丁目。明治通りと外苑西通りが地図上で“くびれ”を描くこのエリアにおいて、比較的規模の大きいヴィンテージ建築が立ち並ぶ一帯がある。中でもひときわ異彩を放つのが、かつて建築界を賑わせたビラシリーズだ。この辺りの明治通りを通ったことがある人であれば、あれかな?と思い当たる建物があるかもしれない。今回ご紹介するのは、通りから脇道に入ってゆるい坂をくだった先にある、ファサードのスリットから鮮やかなイエローが垣間見える建物。竣工から40年以上経ったとは思えないほどに見る人にモダンな印象を与える、ビラシリーズの第3作だ。
エントランスをくぐると、空が覗く光庭に出る。そこを取り囲むように黄色い街が広がっていた。と言えば、少々大げさかもしれないが、イエローを基調としたコントラスト鮮やかな空間配置からは、多面的に構成された住戸の様々な表情が見て取れる。建物は光庭を中心にスリットで分割された4つのボリュームから構成されており、今回ご紹介するのはその光のふもと、角地に位置するボリュームの1区画だ。竣工当時の先駆的なデザインがうかがえる扉を開けると、コンパクトながらも竣工当時の面影が感じられる空間が広がった。間取りはやや変形型のワンルーム。広さは13坪ほどと少々心許ない印象だが、通りに面する開口部とミラー張りの壁面が視覚的な広がりを演出し、窮屈さはそれほど感じられないだろう。
天井は少々時代を感じさせる凹凸のある白塗装、床はタイルカーペットと空間の魅力はかなり抑えられた仕様になっている。おそらく床材を変えてみるだけでも空間の質は大きく変わってくるだろう。天井にはライティングレールが付いているので、既存の蛍光灯を粋なスポットライトに付け替えて、色気のある空間を演出してみてはいかがだろうか。
カラーには物語がある。
かつて世間を虜にした音楽プレーヤーのキャッチコピーだが、建物や空間についても同じことが言えるのではないかと思う。今なお多くのクリエイターに愛されるこの建物。ご紹介した区画も、これまで様々な入居者によって彩られてきたことだろう。この黄色い建物の一室を自分の色に染め上げ、新たな物語を紡いで頂ければと思う。
EDITOR’S EYE
通りからの視認性が高い1F部分であるため働き方がそのまま外部へと洩れ出してしまうが、見方を変えれば、室内空間をアピールできるチャンスともとれるだろう。ぜひ、オリジナリティ豊かな空間に仕上げて、クリエイティブな仕事に打ち込んで頂きたい。小さいながらもウッドデッキが敷かれたバルコニーには、観葉植物を置いてみても良さそうだ。