EDIT
西麻布の交差点から広尾方面に向かうときに、必ず目に入る大きな建物がある。かつて、この建物がある外苑西通りの、西麻布の交差点から天現寺橋の交差点までを「地中海通り」と呼び、「ブランディング」や「空間プロデューサー」という言葉が脚光を浴びはじめた頃、日本でその先駆けであったシー・ユー・チェンと英国の建築家ナイジェル・コーツが手がけたのがこの建築物だ。
古代ローマ調ともいえる迫力ある壁に、アイアンのオブジェのような柱や階段がコラージュの様に施されている。夜の姿がまた美しい。それもそのはず、ここには、ディスコ、高級イタリアンレストランなど、当時をときめく若者の憧れがつまっており、西麻布の夜のワンシーンを作った、スキャンダラスなビルだったのだ。
正直、いまこの物件を見て、時代を感じると思う人は少なくないだろう。人々の関心はラグジュアリーから離れつつある事もわかってはいる。だが、この物件は、あの時代だからこそ建てられた、総建築費何億円という真のデザイナーズビルディングである。実際に、いまも活躍するプロデューサーやクリエイターなど仕掛け人といわれる人たちが、今からここで何かを始めようと動いている事が噂されている。「面白いもの」「美味しいもの」「いいもの」に対しよりシビアな目を持ち、しかもそれが皆同じではなくなった今の世の中でも、何かが起きるのを皆期待しているような気がする。
EDITOR’S EYE
1990年代の東京を経験していない者にとって、この時代の文化や流行は本当におもしろく感じる。憧れの時代だ。想いを馳せるだけでなく、このビルのポテンシャルなら、もう一度何か起こってもおかしくないなと、常々考えてしまう。